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B、G、Aたちがマーケットで織烈な戦いを演じていたのは間違いない。
プリンストン債を買うことは、Aの陣営に加わるのを意味した。
彼はその力ネを自分のチップとして流用し、敢えなく敗れ去った。
そして日本の投資家も、知らぬ間に彼らのゲームに巻き込まれていたのだった。
日本を揺るがした国際金融スキャンダル「プリンストン債事件」は結局、二○○一年一二月一七日、R・グループを買収した英大手銀行HSBCが日本側に六億六○○万ドル(約七九○億円)を支払うことで和解した。
この結果、賠償を求めていた日本企業五三社の内、五一社に被害総額の八割が戻ることになる。
では、これで一件落着なのか。
答えはもちろん、ノーである。
事件発覚後おびただしい記事が書かれ、これを題材にした小説も発表された。
しかし、外資系のリベートエ作や顧客の「飛ばし」に重きを置くものがほとんどで、日本のカネがいったいどこへ、どうやって消えたのかほとんど触れていないのだ。
この意味でプリンストン債事件は、ウォール街の虚像と実像を鮮やかに映し出してくれたとプリンストン債の販売窓口は外資系証券の東京支店だが、その資金を運用するのは海外のファンド・マネージャーである。
彼は資金を保管する金融機関担当者と共謀して、手数料を吸い取るシステムを作り上げる。
そして顧客も知らぬ問に、彼は国際金融市場の危険なゲームにのめり込んでいった。
長引く不況と低金利から、わが国では高利回りの金融商品が続々と紹介されている。
大半のり、特別利益を発表するところも相次いだ。
一方、同債を販売したK証券東京支店の瀬戸川明・元会長は証券取引法違反などで起訴され、M・Aもニューョークの拘置所に拘留されたままである。
日本人が聞いたこともない国の債券や金融機関もある。
これに低金利に苦しむ庶民が飛びつき、火傷するケースが続出している。
年利四パーセントを躯いながら事実上デフォルトに陥ったアルゼンチン債はよい例だ。
利回りの数字に酔わず、それを扱う金融機関の業界での評判、担当者の実績と信用度、いかなる不測事態が考えられるのか、これらを冷静に分析すべきなのだ。
プリンストン債事件も同様だ。
M・Aが投資家勧誘で米政府機関から処分を受けていたこと、資金を保管するプライマリー・ブローカーが突然変更された不自然さ、調べればすぐ分かることである。
いわゆるデュー・ディリジェンス(事前審査)もせずに、大金を預けたのはあまりに軽率ではなかったか。
ある大手メーカーの法務担当者にこう指摘すると、彼は力のない笑いを浮かべた。
たしかに社内で『本当に大丈夫か』という声があったのも事実です。
でも、われわれに海外の金融機関の信用度を調べるノウハウなんてありません。
かりに担当役員に指摘しても、『N新聞の人気アナリスト・ランキングに入る外人さんを疑うなんて失礼だ!』と叱る人もいます。
プリンストン債の被害に遭った企業は大半がこうですよ。
日本側の思惑がどうであったにせよ、プリンストン債の裏にはトレーダーの合従連衡、マーケットの情報戦、巨大資金を用いた価格操作など凄まじいゲームが隠れていた。
すでに水面下では第二、第三のゲームが進行中かもしれない。
世界経済のグローバル化は、彼らの動き次第で、日本企業とそこで働く平凡な社員の人生さえ変えてしまう。
これこそが、プリンストン債事件の最大の教訓であった。
これから紹介する「Tパソコン訴訟」は、まさにその典型的なケースだった。
発端は九九年三月、米テキサス州の連邦裁判所で起こされた訴訟だった。
日本を代表するメーカー・Tが販売したノート型パソコンに欠陥があるとして、現地ユーザーが訴え出たのである。
知らぬ間に海外のゲームに巻き込まれ、気がついた時には大金を奪われていた、じつは金融商品の取引以外にも、目に見えない買が存在する。
年間で約一八○○万件の民事訴訟を抱え、全米七○万人の弁護士が、損害賠償や訴訟費用でとてつもないカネを動かす「訴訟ビジネス」である。
そして、彼らは日本企業も標的に定め、社会正義の名のもと、容赦なく巨額のカネを奪っていく。
経済のグローバル化に伴い、日本企業をかつて想像もしたことがない。
「テキサス州の陪審裁判は大企業に不利な評決となる例が多い」や、「内蔵されたフロッピー・ディスク用半導体に不具合が生じ、データが読み取れなくなる恐れがある」という主張だった。
Tは初め、実際の苦情や修理要請は一件も来ていないことを盾に争う構えだったが、弁護士と協議した後、九九年一〇月、和解を受け入れることになった。
支払い金額は実に一一〇〇億円だ。
理由は、「現実にありえないほど過酷な使用条件でエラーが発生する可能性がある」や、「実損が出ていなくとも理論的に証明されれば敗訴の恐れが大きい」などだった。
この結果、Tは、過去一○年間にノート型パソコンが北米で稼いだ利益が吹っ飛び、二○○○年三月期の連結決算も赤字に転落してしまった。
この訴訟では当初から、一人の米国人弁護士の名が登場した。
それもかなり悪役のイメージで、大企業相手に裁判を仕掛け、大金をせしめる男として描かれていた。
これが、Tパソコン訴訟の原告団を率いたW・R弁護士だった。
なかでも批判の的になったのが、原告側弁護士への巨額報酬だった。
『訴訟はビジネス。
報酬をもらうのは、有能な経営者が高額ストックオプションを手にするのと同じだ』(中略)和解による原告弁護団の報酬は一○○億円以上。
弁護団の一人であるW・R弁護士は、『高度な訴訟ノウハウと準備にかかった費用への正当な見返り』と言う。
敗訴すると一兆円近い損害となり、企業としての存立を危うくしかねない。
このニュースは「Tショック」として内外に衝撃を走らせた。
顧客から一件の苦情も来ていないのに、なぜ、二○○億円ものカネを払わなければならないのか。
どう見ても、賠償金目当てのイチャモンではないか。
これがまかり通るようでは、おちおち安心して商売もできない。
日本ではTへの同情と、金儲けに手段を選ばない米国訴訟社会への怒りが広まっていった。
また東芝のN社長(当時)も、「私の報酬と比べると三ケタも違う。
彼らは米国の司法制度を最大限利用して、あのような和解内容になった。
すばらしい経営者とは思わないが、そういう意味では『尊敬』に値する人物ではないか」と、皮肉まじりに答えている。
いわば、日本企業を食い物にするハイエナ弁護士の代表格がW・Rで、Tはその生け費にされたというわけだ。
W・R、一九四七年九月二九日生まれ、米ルイジアナ州のジェニングス出身。
T大学などで学んだ後、七四年に弁護士資格を取得した。
八○年代には、建材に含まれるアスベストの塵で呼吸器系の病気になったとする住民を集め、アスベストメーカーに訴訟を起こし、巨額の和解金を手に入れた。
また九八年一月には、市民の健康を悪化させたとして、テキサス州がたばこ会社に起こした訴訟で原告側弁護士の一人として活躍、一七三億ドルの和解金支払いに追い込んだ。
これにより、Rたち弁護団が受け取る報酬は将来の支払い分も含めて五六億ドル。
全米の高額報酬弁護士ランキングに名を連ね、民主党への大口献金から大統領を呼べる政治力を持つと言われる。
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